書評:リズ・マレー「ブレイキング・ナイト ホームレスだった私がハーバードに入るまで」

ニューヨークのサウス・ブロンクスで薬物中毒な両親の元に生まれ、生活費は月数百ドルの生活保護のみ。なにせ両親は薬物中毒なので僅かな生活費も麻薬に消えていく。やがてアパートの家賃の滞納が続き、ついに一家はホームレスに。そんな最悪の状況から名門ハーバード大学へ進学したリズ・マレーの嘘のような人生のお話。

「どん底からの逆転劇」というストーリーはよくあるけど、もしこの話がフィクションだったら設定が陳腐すぎてきっと面白くなかった。彼女に足りないのは成績ではなく、今日の食事だったなんていかにもな設定ですよね。

両親の薬物中毒の為に、リズが接点を持つ薬物依存症の支援グループがラインホルド・ニーバーの言葉をスローガンに掲げています。

ニーバーの祈り
神よ
変えることのできるものについて、
それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては、
それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、
変えることのできるものと、変えることのできないものとを、
識別する知恵を与えたまえ。
引用元:Wikipedia – ニーバーの祈り

推測ですが支援グループがこの言葉をスローガンに掲げている理由は、薬物依存症は貧困に喘ぐ層に多いことから「過酷な生活は変えられないかもしれないがそれは冷静に受け入れ、それでも勇気を持って薬物に逃げることを辞めよう」と訴えたいからだろうと思います。

もし私が彼女と同じ状況にあったら「変えられない現実を冷静に受け入れる」という部分だけを絶望と共に眺めていたはず。でも彼女はそうしなかった。彼女は自分の置かれた状況を変えられるものと考えた。

母親の死をきっかけに、悲惨な生活から抜け出すため高校へ進学することを決意するリズ。興味深いのはこのときはリズ自身もハーバード大学なんてまだ夢にも思っていなかったことです。ただ「学校に行けばなんとかなる」という思いで、最初の一歩を踏み出した。

そこからリズはひたすら努力を重ねます。学費を稼ぐために身を粉にしてアルバイトをして、学費を抑えるために本来4年間のカリキュラムを2年間で終わらせようと猛勉強。飛び級で卒業するために猛勉強したことで成績が学年トップになって、初めてハーバードという大学を意識します。でもこの時になってもまだリズにとっては「そういう大学がある」というだけの認識で、ハーバードどころか大学進学さえ意識出来ない。だってリズには大学の学費が払えないから。でもそこから…。

私はP.442~P.443がこの本のクライマックスだと思います。リズは自分の人生を変えられるものと信じて勇気を持って行動し続け、自分に出来ることを全てやった。そして仮にその結果が悪いものであっても冷静にそれを受け入れる決意をした。リズにとって変えられないものとは、自分の意志に関係なく与えられた悲惨な生い立ちではなく、自分の意志で出来ることを全てやり尽くした上での結果のことだったんですね。


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